【6thイベント】
プロティアン・キャリアと退職学®の専門家をお迎えし、Z世代の新卒採用を議論しました!

2022年12月14日(水)に、TalkCampの第6回イベントを開催しました!

今回のイベントは、CX&Harmony代表 / 一般社団法人プロティアン・キャリア協会CGOを務め、現代にマッチしたキャリア理論としてプロティアン・キャリアの普及実践を行なっている栗原和也さんと、日本初の退職学®の研究家として「退職広報」という新たな採用・マネジメント手法を提案している佐野創太さんの2名をゲストスピーカーにお迎えしました。

本イベントには、企業の採用・人事担当者を中心に約20名の方にご参加いただきました。

さらに、イベントの様子はログミーBiz(株式会社ログミー)にてレポート化・公開され、公開時には人気ログランキングの上位に入っていました!(スクリーンショットを撮っておかなかったことがたいへん悔やまれます、、)。

●ログミーBizのイベントレポートはこちらからご覧いただけます。

こうした盛り上がりから、本イベントのテーマは採用・人事担当者を中心に多くの方にとって関心の高いものであることがうかがえます。

今回は採用を軸としたイベントでしたが、ゲストスピーカーお二人のお話や参加者同士の議論を聴いていると、採用という一時点に限らず、キャリアという人生のより広い時間幅について示唆や発見の得られる会でした。

採用に関わる方はもちろん、そうでない方々にも今回のイベントのエッセンスだけでもお伝えできるようにレポートしたいと思います!

なお、ゲストスピーカーお二人のお話の詳細や会の流れはログミー様のレポートが詳しいのでそちらに譲ることとし、要約を中心にTalkCampの中の人の所感や発見も交えてお伝えできればと思います。


栗原和也さん - 変化に対応するキャリア観

最初に進行の鈴ヶ嶺(TalkCamp代表)から開催趣旨等をお伝えした後、さっそく一人目のゲストスピーカーである栗原さんからお話を頂きました。

栗原さんのお話のテーマは、「変化の時代を生き抜く『キャリアオーナーシップ』」です。

社会や組織と個人の間の関係がキャリアを考えるうえで大きな論点となるのですが、大きな流れとして、従来のように組織のリソースとして人が従属するあり方から、人を主軸とした組織へと転換する人的資本経営やヒューマンキャピタルマネジメントへの変革が進んでいることを栗原さんは提示します。

さらに、ビジネスモデルの寿命の短縮と人の寿命の伸長が同時に進んで両者の差分が開いているという傾向もあります。
このトレンドを踏まえると、従来どおりの終身雇用を誰もが受けられる保証はなく、定年や退職といった概念が消失し、意味をもたなくなることが想定されます。

こうした背景を踏まえると、個人が自身の人生やキャリアを主体的に考える必要があるし、従来どおりのキャリア観を転換する必要も出てくると、栗原さんは問題提起します。

「キャリア」の意味合いとして、従来は職業や実績・経歴といった過去の数字や肩書がメインだったのですが、これに加えて「これからどうしたいのか」という未来戦略を描くことが、栗原さんの提案するキャリア観の転換です。ここで大切なのは、未来戦略の軸となるのは技能的・経済的な自立ではなく、自らの意志や規範であるということです。
なぜなら、ある時点での技能や経済的地位は環境の変化によって陳腐化し得る一方、自身の内的な意志や規範を軸に据えると、環境が変化してもその軸を拠り所にして自分の行動を変え、適応することができるからです。こうした軸の据え方によって醸成されていく自分らしさと変化適応力を、栗原さんが普及実践に携わるプロティアン・キャリアの理論では「アイデンティティ」「アダプタビリティ」というキーワードで表現されています。

キャリア形成の鍵ともいえる「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」を育むには、組織との関係性が重要になると栗原さんは指摘します。
具体的には、個人が自分の未来戦略を踏まえて「こういうことがしたいです」と希望を示し、組織はその希望を実現するために具体的な業務やポジションを提供するという関係性を指します。こうした関係は個人のキャリア形成を促進しますし、今後はこうした関係を築ける組織が個人に選ばれるようになるだろうと予想されます。

個人と組織がこのような関係を築けていると、退職が単なるお別れではなくなると、栗原さんは本イベントのテーマに言及します。退職と同時に関係を断絶するのではなく、活かすことができるかどうかがプロティアン・キャリア理論で退職を考える際のポイントになるとのことです。
なぜなら、プロティアン・キャリア理論では、従来のビジネス資本(スキルセット・経歴)だけでなく、経済資本(お金)と社会関係資本(人脈や関係性)も重要視しているからです。所属組織との関係が築かれていると、たとえ退職となってもその関係は断絶されません。社会関係資本は環境の変化によって減損しにくく、アダプタビリティを支えることになります。

ここまでに栗原さんから示されたアイデンティティやアダプタビリティ、社会関係資本といったキーワードを受けてキャリア開発を進めるための習慣も栗原さんらは理論化しています。こうしたキャリア観にもとづいて動けるようになった人間が、個人と組織の関係性や組織そのものを良い方向に変えていくことを栗原さんは期待しています。

佐野創太さん - 攻めと守りの武器になる「退職広報」

続いて、もう一人のゲストスピーカーの佐野さんからお話を頂きました。

佐野さんのパートではウォームアップワークや、チャットを介した参加者との意見交換も取り入れていただき、終始議論が賑わっていました。

佐野さんが提唱している「退職学® (resignology)」は、「退職後も声をかけられ続ける人物に成長する『最高の会社の辞め方』を研究する活動」のことです。
最高の辞め方を繰り返すことで、何歳になっても方々から声がかかる「セルフ終身雇用」の定着を佐野さんはミッションとしています。

方々から声がかかる状態を実現していくというのは、栗原さんのお話のなかにあった社会関係資本の蓄積と対応する部分があるように思います。

「最高の辞め方」は個人の退職者視点での考え方ですが、これを企業の視点から見た活動を佐野さんは「リザイン・マネジメント」と呼んでいます。これは、退職者「も」ファンにしてピンチに強い組織をつくる組織開発の手法のことです。退職をケアすることで人材の定着・育成を図るのはもちろんですが、転職が当たり前になった現代で完全に人材の流出に蓋をすることは難しくなっています。そこで、万が一育てた人材が辞めていったとしても、アラムナイとして繋がり続けている状態を佐野さんは構想しています。

具体的なリザイン・マネジメントの方針としては、退職者が出た部署が陰鬱な雰囲気になったり上司に批判が集中したりする組織内の負の影響を避けることや、ネガティブな退職エントリーや口コミをコントロールすることなどが挙げられます。

リザイン・マネジメントを考えるうえで、佐野さんは退職者の声を「食べログで言う『口コミ』」のようなものと例え、その重要性を強調します。退職エントリーや転職サイトの口コミは、その会社に入った人が直接感じたことであり、さらに当の会社との利害関係がなくなっていることから、会社の実態についてリアルを反映していると考えられやすい情報です。

また、特にZ世代には「選択肢を外したくない」という意識が強いことも佐野さんは指摘します。外さないために入念な検討をする傾向にあるZ世代にとって、退職者の声は参考情報として関心が高まっています。

この若い世代の「選択肢を外したくない」傾向は各方面で聞かれます。TalkCamp内部でメンバーから共有があったときにもチャットが盛り上がったのですが、稲田豊史 氏の著書『映画を早送りで観る人たちファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書, 2022)でも、視聴するエンタメコンテンツ選択の文脈で同様の指摘がありました。

退職学®の考え方をお話いただいた後に、佐野さんからは具体的な「退職広報」についての紹介がありました。

退職広報とは、退職者の声を自社で集めて広報に用いることです。

これが有効なのは、実践している会社がほとんどないためです。そのため注目を集めやすく、社風のブランディングになったり、情報をオープンにしている誠実な会社というイメージを獲得できたりすると佐野さんは指摘します。

また、退職者インタビューは会社を守る「盾」になると佐野さんは退職広報の効果を強調します。退職者インタビューを実施・公開しておくことで、退職エントリーでネガティブなことを書かれにくくなったり、退職広報がネガティブな口コミやエントリーよりも検索結果の上位に表示されたりと、Webでの退職者・求職者の振る舞いを意識した施策になります。

退職はこれまで「裏切り」「蓋をするもの」と捉えられがちでしたが、実は採用ブランディングのような攻めの施策や、ネガティブな評判対策のための守りの施策にも使えることをメッセージに佐野さんのパートは締めくくられました。


ディスカッション・質疑応答・クロージング

お二人のゲストスピーカーからのお話のあとは、参加者がブレイクアウトルームに分かれてディスカッションを行ないました。

採用・人事担当者が中心ということで、各社のキャリア開発や退職対応の取り組みを共有したり、栗原さん・佐野さんからのお話をどのように具体的な採用・育成施策に取り入れていくのかが活発に議論されたりしていました。

参加者からのコメントや感想を以下に一部掲載します。

  • 離職してしまう人と残された人の双方がwin-winになる方法を人事が見出すことはずっと課題に感じていたので、いずれのお話も聞くことができて本当に勉強になる時間でした。
  • 元々採用ブランディングに携わっていることもあり、非常に興味深いお話でした。退職広報は次世代のキャリア観に合った手法だと感じていますので、さらにお話をお伺いしたいと感じています。
  • 退職者と繋がり続けたりアラムナイを形成したりする取り組みは、社員あるいは元社員のプライベートな人脈や交友関係に対して、企業がある意味オフィシャルに関与することになると思いますが、公私を横断する部分に関して摩擦を少なくしたり問題が起きないようにする仕組みについて、参考になる事例はあるでしょうか。

おわりに

今回のイベントは「採用」に対して、より広い時間幅を展望した「キャリア」と、採用とは対極に位置づけられる「退職」という2つの視点から考える機会となりました。

これから24卒採用が本格化しますが、企業にも学生にもプラスになる採用・就職活動を実現できればと思いますし、その実現に今回のイベントが少しでも参考になったら嬉しい限りです。

TalkCampでは今後も定期的に、オフライン・オンラインイベントを実施し、“採用がはたらく人の幸せを増やす”世界をつくるため活動していきます!

同じような想いを持っている方、ぜひ私たちと一緒に語りましょう!

ゲストスピーカープロフィール

■栗原 和也 氏■

CX&Harmony代表/一般社団法人プロティアン・キャリア協会CGO(Chief Growth Officer:最高事業成長責任者)。

2011年外資系総合ITサービス企業にシステムエンジニアとして新卒入社。総合商社向けの基幹システム開発、業務変革(BPR)プロジェクト等に参画。2017年に人事部へ異動。新卒採用担当として、年間50~300名のエンジニア採用をリード。延べ5,000名を超える学生との対話を実施し、企業・学生双方が納得できる採用の形を探求している。企業の垣根を超え、キャリアについて気軽に越境対話できる『越境キャリアカフェバー』を運営。組織と個人がシナジーを生み、誰もが自分らしいキャリアを築ける世の中を目指す。

Twitter:@kuri_career

Facebook : https://www.facebook.com/kazuya.kurihara.94

LinkedIn : https://www.linkedin.com/in/kazuya-kurihara-527a96167/

■佐野創太 氏■

【肩書き】

・著者/退職学®︎、リザイン・マネジメント(Resign Management)の研究家

https://taishokugaku.com/

・パーソルキャリア株式会社の副業・フリーランス人材のマッチングプラットフォーム「HiPro Direct」マーケティングマネージャー

https://direct.hipro-job.jp/lp/pro/

・”デザイン×デジタル”で経営課題に解を出す福島県のWeb制作会社、スリーツリークリエイト株式会社の編集・人材育成顧問

https://threetree-c.com/

【プロフィール】

1988年生まれ。2012年に慶應義塾大学・法学部・政治学科卒業後、株式会社パソナ パソナキャリアカンパニー(現パソナJOB HUB)に入社。人材紹介部門にて、IT・Web領域の転職エージェントに従事。会社の魅力を土地や駅、社員の趣味から言語化する求人票ライティングを武器に全社2位の成績を納めた後に、研修会社に転職するも1ヶ月で早期退職。無職になる。

2013年に株式会社パソナ パソナキャリアカンパニー(現パソナJOB HUB)に出戻りし、新規事業の立ち上げ責任者・メディア編集長として求人サービスを業界3位に成長させる。

2017年、介護離職を機に日本初の退職学®︎の研究家として独立。20〜50代の1200名上の働き方相談を有料で実施した経験と、800名以上の対人支援者の経験とノウハウをパワーワードに変える独立支援の経験をもとに、2022年に『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!』をサンマーク出版から出版。Amazonの「転職よみもの」や楽天「社会」、三省堂書店 有楽町店の今週の「ベスト ビジネス部門」などで1位になる。

50社以上に「退職者を採用とマネジメントの材料に変えてピンチに強い組織をつくる」リザイン・マネジメント(Resign Management)を提供。退職広報という新しい採用、マネジメント手法を生み出す。

著者・研究家活動と並行して、実務家として大手テレビ局のHR領域の新規事業の立ち上げ・コンテンツ戦略担当や奈良県三宅町の複業プロジェクトのリーダー、フィンテックスタートアップの採用広報の立ち上げを担当。現在も編集・コンテンツ・マーケティングの観点から「社会性と収益性を両立させる」メンバーとして複数社に参画している。

【リンク】

HP : https://taishokugaku.com/

著作:

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